腰の骨や筋肉に異常が生じて痛むケース
骨や筋肉の損傷による腰痛
腰は、その中心に腰部の背骨にあたる「腰椎(ようつい)」があり、その内側を太い神経が通っています。
腰椎は固い骨「椎骨」と、軟らかい軟骨「椎間板」が交互に積み重なって構成され、更に椎骨同士は「椎間関節」という関節で連結されています。積み重なった骨が崩れないように、腰椎の周囲は筋肉と靭帯によって支えられています。
腰が痛む大きな原因にはいくつかありますが、最も代表的なものが、こうした腰の組織が疲弊したり損傷することで生じる痛みです。これを器質的な痛みといいます。
◆器質的な痛みの主な原因
器質的な痛みが生じるケースは大きく分けて以下の4つです。
- 腰のケガ・外傷
- 腰の筋肉疲労
- 腰の骨や軟骨(椎間板)の異常
- 腰の関節痛
1.腰のケガ・外傷
スポーツにおける激しい接触や、日常生活における転倒や事故による衝撃で、腰にケガを負うことによる痛みです。筋肉や靭帯の裂傷、打撲(だぼく)、捻挫(ねんざ)、骨折などがあります。
大抵の場合、ケガや事故をきかっけとしてすぐに腰痛が発生するため、痛みの原因ははっきり分かっていることが多いです。
このほか、腰を強くひねった時に腰を捻挫したり、骨粗しょう症によって骨がもろくなっていて、せきやくしゃみなどのわずかな衝撃で骨折したり、骨や筋肉が成長過程の子どもが激しいスポーツを続けることで腰椎が疲労骨折する(若年性腰椎分離症・すべり症)といったケースもあります。
運動中に突発的なケガが発生したら、早急に適切な処置を行うことが大切です。処置が早ければ早いほど、症状の悪化を最小限に抑え、その後の回復を早めることができます。(参考:応急処置法「RICE」)
2.腰の筋肉疲労
腰の周囲には腹筋・背筋のほか、体の奥深くの大腰筋や脊柱起立筋などの筋肉があり、腰椎(腰部の背骨)を周囲から支えて腰椎にかかる負荷を軽減したり、背骨のゆるやかなS字カーブを保って正しい姿勢を維持しています。(参考:図解「腰の筋肉」)
仕事や運動で腰を使い過ぎて疲労がたまると、腰の筋肉に炎症が起こって、にぶい痛みや"こり"、だるさ、重くるしさなどを感じます。つまり「腰の筋肉痛(筋・筋膜性腰痛)」です。
筋肉はたくさん動かした時だけでなく、長時間同じ姿勢を続けたり、前かがみや中腰など無理な体勢をとった時にも、緊張して固くなり、血液の流れが悪くなって鈍痛を生じます。これは痛みや疲労の元となる物質が流れ出ていかずに溜まりやすくなったり、固く柔軟性のない筋肉では負荷を分散・吸収する働きが弱まり筋肉を痛めやすいためです。
また、腰の筋肉や靭帯が疲労で弱った状態で、腰を急にねじったり、重い荷物を持ち上げようとしたりして一度に大きな負荷がかかると、筋肉が捻挫してぎっくり腰のような"急で激しい痛み"に見舞われることもあります。
【関連項目】
筋肉疲労による腰痛の特徴
- 痛みはさほど強くなく、コリやだるさを伴う"鈍い痛み"であることが多い。ぎっくり腰のような激痛が起こることもある
- 前かがみの体勢を長くとると痛みが強まりやすい
- 安静にすることで数日〜1週間程度で痛みは和らぐ
筋肉が疲労した状態が長く続くと…
筋肉が疲労すると腰椎を支える力が弱まります。その結果、普段より腰椎に大きな負荷や衝撃がかかるようになり、骨、椎間板、靭帯、関節なども損傷したり変形しやすくなります。筋肉の慢性疲労が続くことで椎間板ヘルニアの様な、より深刻な腰の障害を発症して、痛みが大きくなったり長引いたりする危険性が高まります。
3.腰の骨や軟骨(椎間板)の異常
腰の骨を大きく分けると、腰部の背骨である「腰椎」と、背骨を下から支える土台となる「骨盤」の2つです。
腰椎を構成する椎骨や椎間板は、腰を使いすぎたり歳をとることで、次第に老化して形や質が変化していきます。
椎間板の成分の80%は水分で、柔軟性と弾力性に富んでおり、椎骨同士がぶつからないようにしたり、骨への衝撃を和らげるクッションの役割を果たします。それが徐々に水分が減ってみずみずしさがなくなり、硬くなって弾力性が失われます。椎間板のクッション力の低下によって上下の椎骨同士がこすれ合ってすり減ったり、加齢によってカルシウムを吸収する働きが悪くなることも加わって、骨はもろくなり変形が進みます。
また、若い頃は水平に保たれている骨盤も、加齢と共に徐々に前に傾いていき、腰が曲がってきます。すると背骨のゆるやかなS字カーブが大きく歪んで上半身の重みを支える働きが低下し、腰椎にかかる負担が大きくなって骨の変性が進みます。
こうした骨や椎間板の劣化は、加齢のほかに仕事やスポーツなどで長年の腰を酷使したり、運動不足や栄養不足による組織の衰えなどの要因も加わると、より早い年代から進行していきます。(参考:「腰に負担をかける要因)
痛みを生じる主なケース
骨や椎間板の異常は、様々な形で腰痛を引き起こします。
- 椎間板がつぶれて痛む
老化して固くなった椎間板に大きな圧力が加わると、椎間板がつぶれて亀裂が入り、中にあるゼリー状の組織「髄核」が椎間板を突き破ってはみ出ることがあります。椎間板が傷ついたり、飛び出た髄核が周囲の組織を刺激することで炎症が起こり痛みが生じます。神経を圧迫して神経痛が起こることもよくあります(椎間板症や椎間板ヘルニア) - 椎骨が変形して痛む
椎間板の機能低下によって椎骨がすり減ると、骨の一部が増殖してトゲ状に変形することがあります(骨棘)。また、椎骨を支える周囲の筋肉や靭帯が衰えると椎骨のズレが起こりやすくなります。こうした椎骨の変化が神経などの周辺組織に刺激を与えて痛みを生じます(変形性腰椎症) - 脊柱管が狭くなって痛む
腰椎の内側には脊柱管と呼ばれる神経が通る空間があります。通常は十分な隙間がありますが、加齢などが原因で周囲の組織が変形して脊柱管が狭くなることがあります。その結果、中の神経が圧迫されて痛みを生じます(脊柱管狭窄症)
※椎骨や椎間板の変性は、ウイルス感染や腫瘍の発生によって起こる場合もあります。
骨の変性による腰痛の特徴
- 神経が圧迫されて下半身の痛みやしびれをともなうことが多い(坐骨神経痛)
- 特定の姿勢や動作をした時に痛む
(起き上がる時、立ち上がる時、前かがみになった時、上体を反らせた時など) - 動かず安静にしている時や、特定の姿勢をとった時に痛みが和らぐ
(ウイルスや腫瘍が原因の場合は安静にしても痛みが治まらないことが多い)
4.腰の関節痛
腰椎を構成する小さな骨「椎骨」の背中側には、「椎弓」と呼ばれる突き出した部分があり、椎弓同士は「椎間関節」という関節でつながって椎骨を支えています。椎間関節は背骨を前後左右にスムーズに曲げるために重要な役割を果たしています。
「重いものを持つ」、「腰をひねる」、「前かがみの姿勢をとり続ける」など、腰の負担が大きい動作をした時、腰の筋肉だけでなく椎間関節にも負担がかかって炎症を起こして痛みを生じることがあります。
また、椎間板が老化してクッション機能が低下すると、椎間関節に大きな負荷がかかって関節のかみあわせが悪くなったり、関節がすり減ったりします。その結果、ひざや股の関節痛と同じように、関節を包む膜(関節包)が傷つくことによる痛み、すなわち関節痛が発生します。
上体を後ろに反った時に腰痛が強くなる場合は、椎間関節の異常が原因であることが多いです。
◆まとめ
- 骨や筋肉の異常による腰痛は、主に加齢による組織の老化や、悪い姿勢や腰の使いすぎなどの腰に負担をかける行為によって生じる
- 前かがみになった時に腰が痛む場合は、椎間板の変性が原因で起こっている可能性が高iい。逆に後ろにそった時に痛みが強くなる場合は、脊柱管や椎間関節の変性が原因になっていることが多い。また、前かがみの状態を長く続けた時に腰の痛みが強く現れる場合は、筋肉の疲労や損傷が原因になっている可能性が高い